わたし好みの新刊―     201110

 

『おもしろい楽器』 (たくさんのふしぎ 9月号)
                 
山本紀夫文・写真 福音館書店 
 副題に「中南米の旅から」とある。著者は,大阪万博公園にある国立民族学
博物館で中南米の農作物の研究をしていた。そのおりに中南米で見た楽器を全
ページに渡って所狭しと紹介している。

中南米の楽器にはみんなシンプルなものが多い。身近にある材料を使って活動
的な音色をかもしだすものが多い。私は国際児童文学館の帰りに,よく民俗学博
物館のショップにだけ立ち寄っていた。ショップだけなら入館料はいらないのし,
珍しい楽器探しをしていた。シンプルな楽器は「音」の学習(講座)にも使える
ので,いくつかは買ったりもした。

 本では,「ふく!」「たたく!」「ふる!まわす!ゆする!」「ひっかく、はじく、
こする」と機能別に分けて紹介されている。まずは「ふく!」楽器である。長さ数m
はあるカーニャの登場。何十本もいっしょになって「ブォーッ、ブォーッ」とふい
て練り歩いていく。祭りの雑踏も一緒に聞こえそう。次は「バホン」という超長い
筒を何本も束ねた楽器。持つのも一苦労に見える。どんな音が出るのだろうか。
次は何種類ものたてぶえ,よこぶえの登場。動物の骨をくりぬいた笛もある。続
いて,日本でもおなじみのサンポ―ニャ。なんと,1m30cmもある大型もある。
最後にはアコーデオン,パイプオルガンと登場する。

 続いて「たたく!」,これまた多彩だ。ボンゴやコンガの他にも多様な民族楽器,
ヒョウタンを共鳴用にぶら下げたマリンバなど,中南米の人々のアイディアがいっ
ぱい。「ふる!まわす!ゆする!」も楽しそうなものばかり。さわやかな音をかもし
だすレイン・スティック,民族色あふれるデザインがカラフルなマラカスは見ても
楽しめる。

 先住民以外に白人や黒人がとけあって音と共にくらしている中南米の「音の世
界」が聞こえてくる。「音楽は,おもしろい音を楽しむもの!」とある。  
                    20119月刊   700

  『ヒトの親指はエライ!』 
             
山本省三・文 遠藤秀紀監修  講談社
 著者山本省三さんは,解剖学者遠藤秀紀さんの仕事をおいかけているルポライター。
『パンダの手にはかくされたひみつがあった!』など,読みやすい科学読み物をいく
つか出版している。

今までの知識では,人間の指は親指だけ他の4本と向き合ってモノをつかむことがで
きるようになったことが進化の証しとされていた。この本は,近年さらに明らかになって
きた親指の骨の構造から,ヒトの進化のあしどりをたどっていく読み物てある。山本さん
独特のやさしい語りかけまじりの文が読み易くしている。

 初めに「手足は、どうしてできたのか」で,脊椎動物のそれぞれの進化の過程が紹
介される。魚のヒレから陸上動物の手足が生まれてきた。速く走ることを目的に偶蹄類
に進化したウマ,キリン。相手をつかまえることを目的に進化してきた肉食獣の爪の発達,
穴を掘るのに特化したモグラの手,空を滑空するのに都合の良いコウモリやムササビの
手や指,海にもぐって泳ぐことに特化したオールのような手を持つクジラやアザラシとさ
まざまである。

 さて,いよいよ「サルの仲間の手(前足)くらべ」に入る。そこに意外なことが書か
れている。

 「なぜヒトという生き物が生まれたのか、その進化の流れがまだよくわかっていない」
という。その研究の手がかりとなっているのが「親指」とのことである。ここにきて親指
研究の大切さが見えてくる。では,ヒトの手の形のもとになっている動物はなんだと予想
されますか。ニホンザルといいたいところですが,なんとモグラに近いトガリネズミという。
そういえば,トガリネズミの前足は人の手とそっくり。いろんな偶然が重なってヒトが誕生
してきたとある。今のところ,指の形があまり特異に進化をしていないサルに注目されて
いる。これからの進化の研究には「親指」の骨の形がカギになっているらしい。今後の
研究成果が期待される。     
                      20116月刊  1,400

(西村寿雄)

                          

               「10月 新刊案内」